いまさら聞けない!?『社会教育』④

対談

第4回:高齢者の居場所づくりについて

開設から50年、社会教育の実践機関として位置づけられてきた「ひの社会教育センター」ですが、時代と共に関わる人もまた変化し、3世代を超えて利用されている場所になっています。
時と共に変化することと、変わらないもの。社会教育とは何なのか、社会教育に求められることは何なのか…こうした話題について今年度は、現場で日々活動に向き合う職員と、この分野を専門的にご研究されている 東京都立大学(2020年3月までの首都大学東京)の荒井文昭教授との対談をお届けしていきます。

第4回対談は、荒井先生と、ひの社会教育センター職員の寺田達也、スタッフ渡邊藍子(高齢者健康体操担当)です。(取材・野口久仁子)

地域スポーツの権利と「いきいき健康体操」

寺田
社会の高齢化が進み、町の中に様々な居場所を作ることが求められています。今日は社会教育がどのような貢献ができるかについて話してみたいと思います。
荒井
団塊の世代が地域に滞留している状況は、今後もしばらく続くと思われます。体を動かすことは、機会があればやってみたいという気持ちの人は多いでしょう。
渡邊
センターでは、30年程前よりシニアの方を対象にした「いきいき健康体操」という事業があります。市内10箇所の会場で、体操をした後、ゲームやレクリエーション、歌などを一緒に楽しみ、みんなでお茶を飲んで和やかな時間を過ごします。
荒井
そもそも日本では、1970年代に『地域スポーツは権利である』という考えが唱えられ、歩ける範囲、500メートルに全ての人にスポーツが出来る場所を提供するべきで、誰もが楽しみ、権利として保障されるべきという説が提唱されました。
寺田
「いきいき健康体操」の会場の多さも、この考え方が背景にあるようです。
荒井
スポーツ施設をつくることは、予算があれば出来ることでしょう。しかし、勇気づけたり、的確な指導ができることは、誰にでも出来るわけではありません。できることは、センターの財産だと思います。スポーツに関する事業を、良質な形で維持させようとしていることは、大事な取り組みです。
一番のポイントは、利用者の声をきいて専門性をもった助言を与えられ、それを継続して実践していることです。これからも高齢者、障碍者、子ども、誰もの、スポーツに接したいという声を実現させるべきだと思います。

コミュニティづくりに必要な「文化と助言者」

渡邊
利用者の声といえば、「いきいき健康体操」では、男性の参加者が少ないことが長年の悩みでもあります。
荒井
私自身も含めて、男は格好つけ続けたいんですよね…
なにより失敗したくない、と考える。ですから、格好悪いと思われそうなことも、実は格好悪くないよという助言があるといいのでは?
野口
女性は人と会って話したい、そのために出かけるエネルギーがあります。男性はまず家から出る、ということがハードル?
ちなみに寺田さんは、おじいちゃんになったら、体操に行きますか?
寺田
…行かないかも(笑)人と何かをする、ということが、ちょっと。
(えっ⁉どこの職員でしょう……)
荒井
「コミュニケーションをとりたいというのは、誰にでもあるニーズ」だと思います。
そこには「文化と助言者」が必要で、「ただ集まって、わいわいする」だけじゃなく、「可能性に気づくこと、一言がもらえること」が必要です。
寺田
そういえば、センターには100近い講座が運営されていますが、参加者の中には、最初の目的の講座じゃないものに、熱中して取り組まれている方もたまに見受けられます。
荒井
たとえば入口がスポーツでも、他の興味や活動への可能性が広がっていくのです。
「やってみたい、でも今までやったことなかった」ということを始めるのは興味深いことですよね。それとセンターでやっていることは、単発で終わることはなく、継続性があることも大切です。「集まる→話す→つながる」のサイクルができるはずです。
人が生きるうえで、「意欲」は大切です。体の持続のためだけに運動しようということは、年齢を重ねると難しくなる。意欲を引き出すことが必要で、あそこで出会った、あの人とまた話したいという気持ちにさせることで、救われる人がでてくるし、その窓口を持っていることは貴重なことです。
寺田
ということは、私たち職員には専門的な助言者になっている自覚をもつことと、利用者の求めるものに合うようなコンシェルジュ機能をもつことも必要な資質ということですね。
荒井
専門家集団の集まりで、センターはある種「小さな大学」のようなものでしょう。
何度も言うとおり、学ぶことは権利であり、何をどう学ぶかは自由であるべきです。誰もが決定の主体者で、主権者一人一人が決めるのです。自由に運動、自由に学ぶ拠点の一つ、教育機関として、役割をどう果たしていくか。ビジョンをもって行政にはたらきかけるべきだと思います。市民にとって、その方が有益です。

コロナ自粛で心配される高齢者の認知症やフレイルの加速

渡邊
最後にもう一つ。先ほどの体操ですが、コロナ禍、再開した後は、体操しかできず、それまでコミュニティを求めて来ていた人は参加しなくなってしまいました。指導員としても、体を動かす時間と、レクやお茶などの楽しい時間、両方を大切にしていたのでショックです。
「高齢者は外出自粛」とはっきり言われていることが影響され、引きこもってしまっている人も心配です。
寺田
このまま外出しないと認知症やフレイル(身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のこと)が加速するという懸念がうまれ、高齢者の方に外出を促す動きに変わってきていた矢先、また高リスクの高齢者には外出自粛の話がされました。
情報過多なこともあり、何が正しい情報なのか整理しきれない局面に来ているように思います。
荒井
今は難しいかもしれませんが、これも重要な学びのテーマですね。ヒントが見つかって動き始めるかもしれない、アンテナだけは常に高くもっていきましょう。

荒井文昭(あらい・ふみあき)教授 プロフィール
専門研究分野
教育政治研究、教育行政学
社会教育協会の理事として、協会附属「市民の社会教育研究所」(2019年設立)の準備段階から関わり、現在、同研究所の副所長を務める。
所属
人文社会学部 人間社会学科 教育学教室/人文科学研究科 人間科学専攻 教育学分野
研究テーマ
1.教育政治の研究(だれが教育を決めてきたのか、だれが決めるべきなのか)
2.学校づくりと地域づくり(構造改革下における 教育行政の動態調査)
3.アジア・オセアニアにおける教育自治のあり方
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