いまさら聞けない!?『社会教育』⑤

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第5回:“バックキャスト思考”とSDGsへの取り組み

開設から50年、社会教育の実践機関として位置づけられてきた「ひの社会教育センター」ですが、時代と共に関わる人もまた変化し、3世代を超えて利用されている場所になっています。
時と共に変化することと、変わらないもの。社会教育とは何なのか、社会教育に求められることは何なのか…こうした話題について今年度は、現場で日々活動に向き合う職員と、この分野を専門的にご研究されている 東京都立大学(2020年3月までの首都大学東京)の荒井文昭教授との対談をお届けしていきます。

第5回対談は、荒井先生と、ひの社会教育センター職員の山本江里子、寺田達也です。(取材・野口久仁子)

現在の中に、未来がある。“バックキャスト思考”と学び

寺田
先生!先日知った「バックキャストという思考法」というものが、これまでずっと話してきたセンターの実践してきたことや、在り様があてはまっていたような内容だったので、今回のテーマとして持ってきました!
荒井
これは「未来から今をとらえる思考法」を指す言葉であるように思われますが、この考え方を議論するときに気を付けないといけないことがあります。それは、将来のために現在を生きることが現在を貧しくしてしまい、将来をも貧しくしてしまう危険性もあるということです。
社会教育協会の90周年記念講演に登壇いただいた堀尾輝久さんは、つぎのように語っておられます。
「将来の準備のために現在を貧しくすることは、実はその将来をも貧しくします。未来は現在のうちに含まれ、現在は未来への選択によって方向付けられる」(『教育入門』)。
堀尾さんは、これまでの自分も、これからの自分も、今の自分の中に入っており、今を大事にすることは未来への選択にもつながっていると指摘されています。
寺田
私が読んだ本の中では、先生が気を付けるべきとおっしゃった論点のことも述べられていました。「“バックキャスト風”思考」とでもいいましょうか。
他方、「バックキャスト思考法」は、「いまある制約を受け入れ、受け入れた状態から、どう楽しむのか。どう豊かに生きるのか。」という考え方であると紹介されていて、先生の言う「現在の中に未来がある」という話にリンクすると思います。
山本
言葉は以前から聞いていましたが、これはもっと学びたい、広めたい考え方だと思います。
荒井
まずは今を冷静に把握すること。そこからじゃないと未来への課題がさがせない。
現状をリアルにとらえながら、それを悲観するのではなく、逆手にとって楽しんでいく。この逆手にとる考え方が、センターの文化に合っているのではないでしょうか。同じ生活するなら、みんなでわいわい楽しく、リアルな未来に続く、明るさを持って。
山本
たしかにそうですね。(笑)
寺田
ところでリアルな元気、未来に続く明るさを日常的に自分に落とし込むにはどういう感覚が必要でしょうか。
荒井
自分の胸に手をあて、本当に何が大事なのか、常に問い返すことだと、わたしは思います。
悩みながらも、自分自身が大事だと思うこと、そして相手が大事だと思うことについて、話しあっていける関係をつくること、つまり学び続けることが必要です。「わからない」ままでいることは不安でしょう。
山本
学ぶことは、幸せになるためのひとりひとりの追求ということですね。
荒井
幸せとはなにかということを、考え続けるという話になると思います。苦しいことに向き合うところもある、でしょう。

幸せを追求する⁉ SDGsの取り組み

寺田
幸せの追求といえば、今、日野市はSDGsで盛り上がっていて、センターでも取り組み、来年度のスマイルタウンの企画にもしようと思っているんです。
荒井
SDGsの目標は、誰も否定できません。悪い事は何ひとつ言ってないですよね。でも私は、違和感をおぼえる部分があります。
たとえば、貧困をなくす。これは誰も反対しない、しかし今の経済システムが貧困を作りながら、片方では貧困をなくすと言っていることに矛盾を感じます。
ところで、最近子ども食堂に関する文献を目にしたのですが、子ども食堂に求められていることは何だと思いますか?
寺田
飢えさせない、食べる場所を提供するということだと思います。
荒井
たしかにそうですが、ただ食べ物を提供するだけでは、矛盾を小さくしているだけで根本的な解決にはならないですよね。
「どうして貧困がうまれるのかということに、当事者自身が気づいて、その関係を変えようとしていくこと」を支えることこそが大事になってくると思います。つまり、今の自分が置かれている状況から、それぞれがどうありたいかという目標を定め、それを周囲が支えるということが求められているわけです。
SDGsは、リーダーたちがグローバルな会議で決めた共通の目標、という価値ももちろんありますが、えらい人が決めたのだから大事なことなのだ、というとらえ方にとどまっていてはだめで、一人ひとりが、それぞれで大事だと思うことを目標にすればいいと思います。
寺田
貧困をなくそうという目標が、自分にとって、どうアプローチできるか、どういうプロセスを進めるか、一個一個考えるべき、ということですね?
荒井
――そうです。そして自分の言葉でそれを表現し、少しずつ実践していくことが必要です。
山本
次年度のスマイルタウンの企画もわたしたちの言葉でつづっていき、みんなに考えてもらえるような記事になったらいいなと思っています。
1年間続けてきました「今さら聞けない⁉社会教育」シリーズは、今回で最終回です。さまざまな学びのきっかけを作ってくださり、ありがとうございました。

参考文献:堀尾輝久『教育入門』 岩波書店(1989年)

荒井文昭(あらい・ふみあき)教授 プロフィール
専門研究分野
教育政治研究、教育行政学
社会教育協会の理事として、協会附属「市民の社会教育研究所」(2019年設立)の準備段階から関わり、現在、同研究所の副所長を務める。
所属
人文社会学部 人間社会学科 教育学教室/人文科学研究科 人間科学専攻 教育学分野
研究テーマ
1.教育政治の研究(だれが教育を決めてきたのか、だれが決めるべきなのか)
2.学校づくりと地域づくり(構造改革下における 教育行政の動態調査)
3.アジア・オセアニアにおける教育自治のあり方
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