くらしの中で見つけた社会教育②

対談

新コーナー「暮らしの中で見つけた社会教育」では、社会教育協会やひの社会教育センターの職員・スタッフが学びの報告をします。
さまざまな社会課題に、社会教育をとおして取り組んでいくために、日々、実践の中にある職員やスタッフがそれぞれ関心のあるテーマを取り上げ、その分野の実践家や専門家に話を伺い、対話をとおして学びます。

今回は、社会教育協会事務局の星野一人(ほしの・かずと)と、ひの社会教育センター職員の粟澤稚富美(あわさわ・ちふみ)(子育て支援カフェモグモグ勤務)が、公益財団法人「トトロのふるさと基金」(以下、「基金」)を活動拠点としている埼玉県所沢市にある「クロスケの家」を訪れ、埼玉大学教授で環境教育が専門の、理事長・安藤聡彦(あんどう・としひこ)さんにお話を伺いました。

(写真右より、安藤さん、星野、粟澤)

「ナショナル・トラスト活動」とは?

星野
まずは「基金」の成り立ちや内容などからお話を伺えますか?

安藤
1970年代からバブルの時代にかけて、この地域で様々な開発が進められました。そのようなとき、「自然を守るために反対」とだけ言っていても守り切れない、ということで、イギリス発祥の「寄附金を用いて土地を買って守る」ナショナル・トラスト活動という方法を取り入れて始まりました。
イギリスで「自然的景勝と歴史的名勝のためのナショナルトラスト」という団体が立ち上がったのは、1895年のことです。
現在では、国民の10人に1人が会員となっており、国土の100分の1を所有するイギリス最大の地主となっています。
日本でも1960年代に鎌倉の大仏の後ろ側にある山に、開発の話が出た際、市民が動き寄附金を集めて山を買い取った背景があり、そのおかげで今でも山と周辺景観が守られています。

星野
なぜ「トトロの…」と名が付いているのでしょうか?

安藤
活動が始まる2年ほど前に映画「となりのトトロ」が公開されました。宮崎監督が狭山丘陵の東側にある秋津に住まわれていたこともあり、狭山丘陵の風景もあの映画のモデルのひとつとして使われています。
私たちのメンバーが監督のおつれあいの朱美さんを存じ上げていたので、そのご縁で、狭山丘陵の森を「トトロの森」と名付けて守っていきたいという相談をしたところ、「『トトロ』の名前と共に狭山丘陵が残るなら、そんなに嬉しいことはない」とご快諾いただいた、という経緯です。

粟澤
寄付をする側も映画で観た「あの里山」とイメージができることで、ただお金を出すわけではなく意義が見えるのですね。

安藤
みなさんからの浄財をいただいて自然と文化財を守るため、1991年に一番最初の森を買いました。現在までの30年間で約10億円の寄付をいただき、63か所の土地を買っています。
最初の20年よりも、ここ10年の土地取得件数が増えているのですが、それは「基金」の地域での認知度も上がり、社会的信用を得てきたところによるものと捉えています。
土地を手放す際の寄付先として選んでいただき、無償寄付をしていただくこともあります。

活動内容と課題

安藤
「基金」の定款で里山の自然環境及び歴史的景観について「恒久的に保存する」と謳っているのですが、その表現はイギリスのナショナル・トラスト法に依拠しています。僕らが死んだあと100年先でも200年先でも、いまある森が同じ形で残りつづけることを目指しています。
そのためには、たくさんの活動が必要です。何よりも、狭山丘陵のことを知っていただくための活動が必要で、学校などでの環境学習支援や、ガイドツアーなどを実施しています。また森を維持していくために、自然環境の調査や情報収集、さらにはそれにもとづく管理活動をします。温暖化など環境の変化から生物の多様性が失われていくため、観察や調査は欠かせません。あとは法人運営のための事業で、委託事業や収益事業があります。

粟澤
森を管理していくのがものすごく大変だと思いますが、ボランティアを集めたりはどのようにされているのですか?

安藤
森は買って野放しというわけにいきませんので、必ず手を入れなければいけません。そこで課題となるのが一緒に活動してくださる仲間です。
現在「トトロの森で何かし隊」というボランティア団体に150人ほどが登録し協力していただいています。登録の前に講座に参加していただき、里山保全の知識とスキルを身につけたうえで実際に活動していただくようにお願いしていますが、多くの方がかかわってくださり本当にありがたいです。先ほど申し上げましたように、「恒久的に保存する」ことが目的なので、関わり続ける人がずっといることが必要となり、シニアの方からの技術継承など、人と自然、人と人との「つなぎ」がすごく重要なところです

星野
若い世代の環境についての意識などはどう見ていますか?

安藤
観光のみならず、インターンや寄付など、様々なアプローチがあるのですが、きっかけはジブリさんのアニメが大好きでという場合が多いですね。そういう若者たちが国境を越えて訪れてくださいます。環境への関心とアニメへの関心はつながるところがあるようですね。
だからこそ、トトロというシンボルと狭山丘陵がどう結びついているか、丁寧に伝えていくことが大事と思っています。私たちの活動はトトロというシンボルと共にある、ということを常に念頭に置くことは大切なことです

今後の活動と森の活用方法

粟澤
「トトロの森〇号地」と名前の付いている森は、どこも自由に入れるのですか?

安藤
囲いなどはありませんが、訪問者がどんどんなかに入っていくということを想定しているわけではありません。環境保全・安全配慮と公開性のバランスは常日頃から難しいと思っています。
森ひとつひとつに、すべて保全計画を決めていて、その方針にもとづいて管理活動を行っています。公開性を高めたり、利用の促進をはかるということになれば、その計画のあり方そのものの見直しも必要となります。
「子どもの頃、森で遊んだ」という経験を有する世代はもう減っていて、だからこそ森との接点を増やしていくことが必要であると考えています。
地域の人が森を身近に感じ価値を見出せるような、そして安全に快適に過ごしながら、森の恵みを感じられるような活用をしていきたいですね。
今まで以上に地域社会とつながり連携し、一緒に、守り、育てていくような関係づくりをしていきたいと思います。
ぜひみなさんお時間のあるときに、トトロの森にいらしてください!


トトロの森を歩くと、地元の方々にも親しまれている様子がわかります。

ナショナル・トラスト活動は100年・200年先の後世、ひいては地球を守るための活動。自分では見ることのない未来のための活動です。
その意義が広がって、人と人がつながり、様々な人が交わる様子を、安藤先生はワクワクと語ってくってくださり、その姿勢こそが社会教育で見習えることだと感じます。

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