わたしたちの社会教育①

対談

今号より、職員同士の対談形式で『わたしたちの社会教育』を語る新企画が始まります。

ひの社会教育センターでは職員の興味・関心から広がる出会いや交友関係から、イベントや事業につながることが多くあります。事業を手がけることに、どのような意義や価値、成果を期待して進めているのか?職員同士の対話から、社会教育施設の存在意義についても考えていきます。

また、社会教育協会理事の荒井文昭先生(東京都立大学人文社会学部人間社会学科教授)にも同席していただき、荒井先生の視点から講評をいただきます。

第1回テーマは、なぜ「クリーニングデイ」を「ひの社会教育センター」が実施しているのか?
フィンランド発祥のアップサイクル・カルチャー・イベント、クリーニングデイを、昨年5月・11月、今年の5月と3回開催しました。
5月下旬に本場フィンランドのクリーニングデイにプライベート旅行で視察に行った、当センター副館長の山本江里子に、職員の寺田達也が話を聞きます。

(写真右より、山本、寺田、荒井先生)

「クリーニングデイ」って何?

寺田
クリーニングデイは昨年、突如、話が出てきて、気がついたら形になっていた印象ですが、そもそもどのようなイベントなのか、また、センターで実施することになった経緯から聞いていきたいと思います。

山本
夏の短い北欧・フィンランドのイベントで、5月と8月の最終土曜日に、国のあちこちで開催されています。
直訳すると「おそうじの日」ですが、ただ不要な物を販売するフリーマーケットの意味合いだけではないやり方が、センターの価値観とも通ずるものがあるのではと直感しました。
『暮らしを大事に、物を大切にする』をコンセプトにしたクリーニングデイを知り、やってみたいと思ったきっかけの大きなひとつは、移転前まで開催していたバザーができなくなったこと、何かそれに替わるものができないかずっと考えていました。

寺田
移転前まで毎年行われていたイベントのバザーは、センターを応援してくれている賛助会のメンバーで構成された実行委員の皆さんを中心に、センターの利用団体さんや、地域間交流の新潟県十日町の皆さんの協力のもと、長年にわたり地域にも根付いていました。移転後、現在の建物では、バザー提供品の保管場所がなく、また、残ったものの処分にかかる費用が膨らんでいたこともあり、イベントの意義を考えたとき葛藤もありましたよね。

山本
移転やコロナ禍を経て、そろそろ地域の皆さんと協力して何かできないかな、と考えていただき、クリーニングデイのイベントを日本で始めた、クリーニングデイ・ジャパン事務局代表の森下詩子(もりした・うたこ)さんのことを知りました。そこで、森下さんをコーディネーターに招き、公民館と連携し、映画と対話のワークショップを企画しました。物との関わり、自らの暮らしを見つめ直す内容のドキュメンタリー映画『365日のシンプルライフ』を上映し、観たあとに何を感じたか、自分の生活に落とし込むには?ということを一緒に観た方と語り合い、対話をとおして学びました。その一年後、クリーニングデイを実際に日野市多摩平地区で開催することになります。

寺田
公民館と連携して地域での活動につなげていった形が、まさに社会教育だなと思います。うちっぽい進め方ですね(笑)。

フィンランドで広がったクリーニングデイ

山本
クリーニングデイはフィンランドのNPOが12年前に立ち上げたイベントです。誰でも登録さえすれば参加できて、夏の最初と最後を楽しむイベントとして定着している様子でした。
「そうじの日」という単語を使っていますが、ただ家の中のいらないものを外に出すということではなく、フィンランドのモノを大事にする文化と、外に出て地域の人たちとつながって楽しもうというイベントとしてのデザインに森下さんも魅力を感じたそうです。

寺田
NPOから始まったことで、国民みんなが知っているというのがすごいですね。そこまで広がった理由みたいなものも見えましたか?

山本
今回、ヘルシンキでギフトショップ「ノルディス」を営む氏家雅子(うじいえ・まさこ)さんとテロさんにお話を伺えたのですが、フィンランドは冬が長く肥沃な土地ではないことから、昔から「物」を大切にする国民性があるそうです。
先祖代々引き継ぎながら良い家具や食器を使うこと、子ども服を譲り合うことは当たり前。クリーニングデイは、ガレージセールや蚤の市をより身近にしたイベントで、そのまま暮らしの一部になったようです。
資源の少ない自国から生み出されるグッドデザインと言われる「価値の高い物」を、国民みんなで使って大事にする考え方が軸にあるようです。

寺田
なるほど。もともと売っているものや持っているもの自体に価値があって、時代を経て水平にぐるぐる回っているという感じですか?

山本
水平っていう考え方、しっくりきます! そうしたモノを大事にする文化は、日本ももともと持っていた生活文化だと森下さんは話しています。
そこで、ただのフリーマーケットイベントではなく、「アップサイクル」という、モノをリユース・リサイクルするだけではなくモノに新しい価値や有用性を見出すという付加価値をつけたのだそうです。
クリーニングデイ・ジャパンに登録することで、商品に付けるタグも使用することができます。売る人が売るモノに+αのストーリーを乗せて売ることができます。

寺田
サービスの世界でも、物の時代からコトの時代へと言われていますよね。ストーリーを設けることで物の価値を上げているという感じでしょうか。

山本
今、モノの売買もネットで簡単に済ませられますが、あえて人と会い、物語を聞きながら買う時間は豊かな時間だと思います。

本場のクリーニングデイ、実際の様子は?

寺田
その日は町中あちこちで開催されているということですが、現地の雰囲気はどのような様子でしたか?
日本でイベントをやるときなどは、使用許可が…とか、よく聞く話ですが、そういう規制や参加費などはあるのですか?

山本
基本的には、その日は誰でもどこでも無料で出店ができるそうですが、メイン会場は申込制のようです。公園やショッピングセンター、美術館等、大小さまざまな規模で開催中でしたが、全体的に皆のんびりと夏の始まりを楽しんでいる雰囲気でした。
日本の事務局には、ルールに関する問い合わせが多いそうですが、本場は、時間も区画もびっくりするぐらい自由でした。根底に、フィンランドで育まれている「自己責任」が、上手く機能していると感じました。

寺田
自由度が上がるほどに、自己責任感が強くなりますね。アウトドアの世界にも通ずるものがあります。ルールが無い方が、自分で考えるんですよね。

山本
楽しみ方も自分で考えるから広がりますよね。子どもたちも参加しながら、手作りのクッキーなどをお皿に並べて売ったりしていて、イベントで食品を扱うときなんかは、いろいろ考えちゃいますよね(笑)。でも日本のおすそわけを思い起こす風景でした。

寺田
日本にも残る泥臭さみたいな感じは、外から見ると案外いいのかもしれないですね。

山本
日本でもみんなでお餅をついて食べていたりするのは、外国から見たらすごいと思われるかもしれません!(笑)

「クリーニングデイひの」のこれから

寺田
本場を見てきた伝道師として、今後のフィードバックや野望はありますか?

山本
なんでも買える時代は終わったかなと感じます。丁寧に選んで買う、使っていらなくなったものを、丁寧に売れる場ができたらいいな、と思います。日野市はヘルシンキの空気に似ていると勝手に思っています。
歩いて一周できる規模感も通ずるものがあって、また日野市にも素敵な公園がたくさんあります。公園や地区センター、社会資源を上手に使い、日野市や地域の方の協力も得ながら、いくつかの場所でいっせいにクリーニングデイを開催するとか、想像したらできそうじゃないですか?

寺田
イベントが形になり軌道に乗った後に予測される課題として、商売っ気を出したり、コンセプトに反する自体が起きる可能性も出てきそうですよね。

山本
どんな人も一緒にやれたらいいなと思います。フィンランドでもその人がそのやり方で幸せならよしとされている雰囲気でした。

寺田
全部自己責任であり、「あなたが幸せならそれでいいんじゃない?」という、主催側のぶれない心が大切かもしれないですね。

山本
社会教育って実はそういうことかなと思っています。研究を重ねてこれが正しい! と作り出すよりも、いろいろな人たちが、実際に自分事として、幸せtにできた! というところが、行きつくところかな、と。

寺田
クリーニングデイはバザーを進化させて、表現変えただけ?なんて思っていましたが、実は教育的要素がいっぱいでした。

山本
未完成だからこそ、いろいろ変えていける可能性があると思います。今回、本場の様子を見て、生きていることをもっと楽しむべきと感じました。

寺田
センターでのクリーニングデイがどう発展していくか楽しみです!


荒井先生からの講評

「暮らしを大事に、物を大切にする」フィンランドのクリーニングデイに着目する、山本さんのセンスに魅力を感じました。「今、モノの売買もネットで簡単に済ませられますが、あえて人と会い、物語を聞きながら買う時間は豊かな時間だと思います」という発言を、私もその通りだと思います。そしてまた、移転前まで毎年行われていたバザーを、新しいかたちでつないでいく取り組みは大切だと思います。
また、フィンランドのクリーニングデイをプライベート旅行で視察した、という発言にも私は興味を持ちました。社会教育にかかわる職員には、「その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」ことが法律で義務づけられています(教育公務員特例法21条など)。ですがセンター職員のみなさんは、楽しそうに、そして軽快に「研究と修養」を実践しておられるのだなぁと感じました。利用者から信頼される職員であり続けるためには、職員自身が学び続けることが大切です。そのための条件整備が今後の課題であることを、改めて考えました。

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