【02】飢餓をゼロに
【12】つくる責任 つかう責任
今回は職員の林 実梨(はやし・みのり)が、みなみだいら児童館の小学生クッキング講座で、お菓子作りを教えてくださっている小久保由起(こくぼ・ゆき)さんに「食」に関わるSDGsのお話を伺いました。
北杜市の「森のおやつやさん」
林
始められたきっかけや、現在のお仕事についてお聞かせください。
小久保
きっかけは家族でハイキングに行ったとき、野山の栗や木苺などを食べたこと。自然にはこんなに美味しくて、拾って食べて笑顔になれる食材がたくさんあるということを改めて見つけたことでした。
当時、まだ小さかった自分の子どもたちに、市販のお菓子やケーキで安心して出せるものが少ないと感じていた私は、その後自分で作ってみることに。
特別、料理が得意ということではありませんでしたが、高校時代に食品化学について学んだ経験を基に、自然の中で見つけた食材から、焼き菓子やジャムなどへの加工も試していきました。
周りの方の後押しもあり、お店を出すことに。ただ、調べていくと営利目的の起業はとてもハードルが高く、たまたまの縁がつながったことから、北杜市に居を構え、あとから工房「森のおやつやさん」を作ることにしました。
現在は、冬季は雪があるので工房は3月までお休みです。春から12月いっぱいまでの、注文生産をしています。日野市内でも販売会をすることもあります。
インターネット販売の前身「パソコン通信」
林
店舗を持たずに営業を始めて、当時はどのように販売をしたのですか?
小久保
清里でのイベントに誘っていただき出店したり、「パソコン通信」というインターネット販売をしていました。
それは画像もなく文字でのやりとりで、自然災害で販売できなくなってしまった果実などを抱え、困っている農家さんと連絡を取り合い、送っていただいた物をケーキやジャムにして送り返したりしていました。
林
ご近所付き合いのインターネット版のようで面白いですね!
小久保
当時から「もったいない」という精神は持っていたけど、その逃げ場がなかったということなんですよね。フードロスという言葉もない時代ですが、でもみんなが意識はしていました。
当時、講座などでお伝えしていたジャムなどに加工することの提案から、ヒントを得た農家さんの商品開発したものが、今でもサービエリアなどで販売されているのを見ると。自分がしてきたことが間違いではなかったなと、嬉しく思います。
みなみだいら児童館での事業
小久保
北杜市で小房を持ったことから、児童館の職員の方との偶然の出会いもあり、現在の児童館での仕事にもつながりました。
一般的なお菓子教室ではなく、おうちにある身近な材料、器具で、お菓子を作りたいなというのが私の思いです。
足りないものを何がなんでも揃えるというのではなく、持っている器具や材料でもできる、それを楽しんで作ることを提案することが自分の役割と感じながらやっています。
逆に子どもたちから教わることや発見も、毎回あって、そういうことがあるからやめられないですね。心を込めて作る、ということを伝えていきたいです。
林
子どもたちも自分で作ったものは残さないですよね。
「教えてくれる方」「みんなで作ったもの」を前にすると、愛着が湧くのかなと、見ていて感じます。
食育とSDGs
林
今、学校での食育は時間の制限などもあり、給食も苦手なものは食べない、というやり方のようですが、好き嫌いは食べていればなくなるものですか?
小久保
あせらない方がいいとは思います。その結果が出るのはけっこう先の話なのかなと。今って長い目のスパンを持ちにくいようで、世の中的にそうなのかな?とも思います。
見守ることがすごく大事だと感じます。見守ることになんの力もないと思っていたのですが、だんだんわかってきたことは、それを子どもたちに「教える」にではなく「重ねる」ことなんだな、と。
SDGsについても言えることで、今すぐに達成させようとする数値目標ではなく、もっと根底の「自分ごと」にするには、わたしたち大人が昔を思い出すことだと思います。もともと日本は資源が乏しくても有効活用能力があって、サステナブルも出来ていたはず。
食にしても何にしても、経済をまわすために多少のロスは必要悪とされ、古来持っていた循環の社会を次世代に教えないことがもったいないと感じます。
林
経済を回すため、日本が発展するためには仕方なかったこととしても、ものづくりも技術を失ってしまっては取り戻せない、壊したものを作り直すことの方が大変ですよね。
小久保
人々の中に、気づきはとっくにあったけれど、目先の経済が目くらましになっています。
SDGsは誰しも持っているもので、それを意識的にすることでだいぶ違うのでは?と思います。考えよう!ということを発信していきたですね。
そして、子どもは経験値が少ないから考えられなくても当たり前だと思ってください、と。
やがて子どもが培ってきた経験値が連動していきます。
そして私たち大人が忘れていたものを思い出して伝えることができるはずで、その中で自分が幸せだな、と思うことを探して行ければいいと思います。
回り道が無駄かな?と思っても、あとからすべてのものが無駄じゃないと思えるはずなので。
終わりに
数値じゃないということや、物事の結果が出るには長い時間がかかるということを、ご自身の生活や子育て、『森のおやつやさん』をされてきた人生の中で、長い時間をかけて体現されてきたような小久保さんのお話。
実体験からのお話には説得力があり、わたしたちも「社会教育」を通してそれを体現していきたいと思いました。
しかし、この目標を達成するには自分たちに何ができるのでしょうか。
今年度はひの社会教育 センターの職員がそれぞれ関心のあるテーマを取り上げ、 「自分ゴト」としてとらえ、その分野の実践家や専門家と対談しながらSDGsの取り扱い方について考えていきます。