【16】平和と公正をすべての人に
今回は認定NPO法人 AAR Japan 難民を助ける会の穗積武寛(ほづみ・たけひろ)さんに、6月19日㈰緊急企画「難民を知る、考える。」の講座でご登壇いただきました。その開催報告と併せレポートします。
上の写真はトルコへの入国を待つ、シリア国境の行列(現在は閉鎖) 写真提供:AAR Japan
AAR難民を助ける会とは?その活動について
70年代後半、インドシナでの戦乱の中、ボートにぎゅうぎゅう詰めになって周辺国へ流出し、「ボートピープル」と呼ばれて日本へも流れ着いていた難民の人たちを助けようと始まった活動。
日本国内でも、大規模な自然災害の際は緊急支援を行い、東日本大震災後の福島での活動は現在も継続中。
難民とは?あなたの難民のイメージは?
どこか全く違う国の人が群れを成し、どーっと押し寄せてくる、そんなイメージだと、難民の方を受け入れることに怖さを感じてしまうかもしれない。
では、国際的に合意されている「難民条約」でいうところの「難民」とは…
『自分の国に戻りたいが、戻るとよくないことが起きる。自分の国の政府にも助けを求められず、逆に危害を加えられる可能性がある』状態にある人のこと。
紛争や迫害などが原因で故郷を追われた人々のうち、国境を越えて海外に逃れた人々を「難民」、自国内の他の地域に避難している人々を「国内避難民」と呼ぶ。その他にも庇護を希望している人々も合わせると、総数は2020年末時点で8,240万人にのぼる。(ウクライナから避難した人々は入っていない)
近年ニュースでも話題になり認知が高まった
ここ1~2年の間、オリンピックやサッカーのワールドカップ予選が日本であり、ミャンマー代表の選手が母国の軍事政権に反対の態度を示したうえ、帰国しないことを選び難民申請をしたことや、ベラルーシの陸上競技選手が帰国を拒否してポーランドに亡命したことなどが話題になった。
また、アフガニスタンでは反政府勢力タリバンが首都を制圧、大統領を追放して国内の混乱が深まったことや、記憶に新しいロシアによるウクライナ侵攻などがあり、日本でも難民に対する認知が高まったといえる。
実際のAARの活動は?
シリア難民、ミャンマーから避難しているロヒンギャ難民などの支援。そしてアフリカでは巨大な難民キャンプの中で、未来につなぐステップとするための中学校設置を支援してほしいとの要望を受け、取り組んでいる。
日本には難民の方はいるのか。
1978~2021年の40年間で16,000人以上の方を受入れた。これは年間で数十万人を受け入れている欧米に比べると、桁が違う。難民を受入れるための審査基準は各国に任せられているが、日本の難民審査が厳正なものであることも要因の一つ。
現在、日本には外国にルーツのある方が200万人暮らしている。これには大人も子どもも、仕事で滞在している方も、難民の方もすべてが含まれる。うち100万人は仕事をし、納税し私たちの普段の生活を支えている。
外国人について「まるで日本にはいないかのように考えるのはやめよう」ということが叫ばれている。
難民の方が直面する問題とは
2部は「みんなで考えよう」というワークで、自分だったらどうするか?を考え、話し合う時間になりました。
ワーク1
シリアでの内戦から逃れ、難民となりトルコで難民として避難生活を送る家族の一員だったら…との想定のもと、参加者全員で、今後どうするかを「家族会議」しました。
説明
トルコで難民キャンプに入れたのは1割未満。あとは知り合いを頼ったりして、町の中でばらけて暮らしている。シリアは元々、教育の程度も高く我々となんら変わらないレベルの生活をしていたが、ある日突然、戦争が始まり、もう10年続いている。しばらくはトルコ政府もシリアとの国境を開けて、難民の流入を容認していたが、今は閉鎖されている。
課題
避難生活が長く続き、いつまで続くのかわからない状況で、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、こども二人の6人家族。おじいちゃん、おばあちゃんは長引く避難生活に疲れきっていて早く自分の国に帰りたいと考えている。内戦は完全に終わったわけではないが、町によっては帰り始めている。家族みんなで今後どうするかを考える。
選択肢
- 今いるところでがんばる
- 他の国にいく
- 自分の国シリアに帰る
選択肢それぞれのメリットやデメリットを出し合い、話し合いました。
- おじいちゃんおばあちゃんは帰りたいけど、帰っても完全に安全ではないかもしれない。
- 家がどうなっているかわからない。
- 分かれて暮らすことも考えてみる。まずは若い人が新しく他の国に行って、教育、仕事などつてを作る。この先に自立できる要素が強い方を選ぶ。
- 命が長く生きられるかを判断基準にして、その次に、衛生、教育。まずは生きていくことが大事!
合理的な判断をして決断したいが、何が合理的かわからない。と、頭を悩ませつつ、なんとか「みんなで他の国に行く。」という結論に至りました。
穂積
どれが正解ということはなく、家族それぞれの判断です。今、皆さんが悩まれたように、当事者は日々真剣に考えながら生活しています。
刻々と状況は変わり、お年寄りは年をとっていき、子どもたちは大きくなる、でも埒は明かない。
紛争は終わっていないのを知りつつ自国へ戻る人もいる、状況によってはそうせざるを得ない、という場合もあるのです。
つづいて…
ワーク2
説明
学校に難民かもしれない子がきたらどうしますか?
シリアから来たヌールちゃん。日本語はほとんど話せず、アラビア語を話し、イスラム教。
自国には戦争で住めなくなった。難民かどうか、ということは本人もよくわからない。
課題
日本の学校でヌールちゃんがどんなことに困るか、みんなと同じように学校生活を送るにはどんなサポートがあればよいか、考えてみてください。
- 言葉、給食に困りそう。
- 一緒に遊ぶ。友達になる。
- 日本語を少しずつわかるようにサポート
- 自分がヌールちゃんの言葉を覚える
- シリア、イスラム教のことを教えてもらう。
ここで小6の参加者の子より、「わかってあげる。」とぽつり一言。大人が全員ハッとさせられました。
選択肢
- 今いるところでがんばる
- 他の国にいく
- 自分の国シリアに帰る
穂積
こういうワークをすると、子どもは直観で本質を突きます。お友達をつくる、ということがまずは大事で、小さい子ども同士は言葉が通じなくても、お互いに自分の言葉を使って、勝手に遊び、何故か意思疎通をしています。大人になると急に壁を感じて、出来ないと思ってしまう。子どもたちにいつも教えてもらいます。
- 情報が不足していること、自分から拾いにいかないとわからないことが多い。
- 毎日毎日ぎりぎりの選択をしている人がいるということを考えました。
- 「難民」の方々を「難民になっている状態」と認識が変わりました。
穂積
1億人になろうかという難民問題をどうするか、と考えると大変ですが、ヌールちゃんのことを考えてもらったように、目の前のその子をどうしようか、と考えると、なにかしら知恵が出せそうじゃないですか?難民の方というのは、ある日、自分の近くに急に居るかもしれない。政治的な決断や公的な制度ももちろん必要ですが、最後は皆さんのような市民の方の理解と協力が必要。ささいなことでもできることから始めていければいいと思います。
どこか遠い世界の話、と思っていた「難民」のこと。必要なのは想像力で、まずは『知ること。』が大事と、強く感じた講座となりました。
しかし、この目標を達成するには自分たちに何ができるのでしょうか。
今年度はひの社会教育 センターの職員がそれぞれ関心のあるテーマを取り上げ、 「自分ゴト」としてとらえ、その分野の実践家や専門家と対談しながらSDGsの取り扱い方について考えていきます。