スキーキャンプを通した子どもたちへのメッセージ

対談

ひの自然学校
スキーアドバイザー:五十嵐 民夫(がらさん) ×チーフディレクター:寺田達也(まめた)

ひの自然学校では子どもたちとリーダーが「スキーを安全に滑る、スキーをシンプルに上達させる、そしてスキーから学ぶ」ことを達成させるために、アドバイザーとして元スキー学校校長の五十嵐民夫さん(通称:がらさん)に協力をいただいています。
がらさんにアドバイスをもらい始めて早20年超。このほど、長く試行錯誤を繰り返してきたこれまでの指導やディスカッションを、指導のためのガイドライン(「がらメソッド」と呼んでいます)にまとめていただきました。
70歳を超えてもなお現役でリーダーとしてスキーキャンプを支えていただくがらさんと、ひの自然学校ディレクター寺田(まめた)でスキーキャンプについて語りました。

寺田
ついに、待望の「がらメソッド」がまとまりましたね!
これまでも長くいろいろなアドバイスをいただいてきましたが、「見える化」したことで、リーダーたちもどのようなステップやオプションを用いて子どもとスキーを滑ればいいかがわかりやすくなりました。
五十嵐
スキーはよく難しく捉えられがちですが、実はとってもシンプルです。
雪の上を歩けること、斜面を登れること、リフトに乗って斜面の上に行くことができれば、スキーで降りてくることができる。ただそれだけで「スキーができた!」と言えるわけです。
寺田
僕自身このシンプルさが腑に落ちるまでけっこう時間がかかりました(笑)。でも、今はホントにそうだなと思います。
この考え方を導入することで、子どもたちもあっという間にスキーが滑れるようになり、リフトの乗車回数もメキメキ伸びていくんです。驚きました。

スキーが「上手い」とは。

寺田
がらさんにはスキーの「上手さの本質」を教えてもらったように思います。こちらも腑に落ちるかで時間がかかりましたけど(笑)。
五十嵐
「上手いスキーとは?」という質問をすると実に色々な回答が返ってきます。確かにそれぞれの分野においては「上手い」とされる滑り方なのでしょう。
しかしスキーの本質をとらえなおすと、「雪山を登り、途中でケガをしないように滑り、目的のところまで無事に行く」ことです。たとえどんな滑り方だったとしても、これが実現できる人が本質的な「上手さ」だと思うのです。
寺田
まさに…深いですね(笑)。スキーは重力(引力)によって勝手に雪の斜面を滑っていく前提があって、そのスピード感が醍醐味でもありますよね。
五十嵐
特に子どもたちは素直なので、自然にでるスピード感が好きですね。しかし、スピードをわざわざ抑えるために必要以上の制動をかけようとする指導をよく見ます。
雪の上で制動をかける行為はバランスを崩し、疲労を生みます。スキーが嫌いになる理由の多くは、この「披露とつまらなさ」だと言われています。
寺田
がらさんには、この考え方を何年かかけて教えてもらったことで、今は子どもたちに「心地よいスピード」を意識させることがテーマになっています。
多少の反復やステップは必要ですが、それぞれの心地よさを表現できているときの子どもたちは、本当にいきいきしていますね。
五十嵐
まさに「心地よい」がキーワードです。そもそもスキーは遊びですからね。
つまり、上手さとは定型のカタチやフォームがあるわけでなく、安全に心地よく滑れる総合的なスキル、というわけです。スキーは自由なのです。
寺田
「スキーは自由。」僕はスキー場を飛び出し、バックカントリーという、山の中を登って滑る遊びを始めてその意味を実感しました。
その本質をリーダーたちと一緒に子どもたちにも感じさせてあげたいなと思います。
五十嵐
もとはといえば、自然の雪山を登り、ふもとまで自由に滑り降りるスタイルを「アルペンスキー」というようになったのです。

スキーは地球がくれた贈り物

寺田
ひの自然学校のスキーでは、がらメソッドによって、子どもたちが主体的にスキーを楽しみ、そこから達成感や自己肯定感、友達とのかかわり、新しい生涯スポーツとの出会いなど多くのものを得ているように思います。
そんなスキーですが、最近温暖化が加速し、全国的な雪不足が毎年懸念されています。そのうち日本でスキーができなくなるのではないかと心配です。
五十嵐
冬、山の斜面に雪が積もってはじめてスキーができます。近年は温暖化が進み、降雪が減って雪不足になりがちです。人工降雪のスキー場があるますが、こちらも気温が下がらなくて雪がつけられず、多くのスキー場が苦労しています。
結局、スキーをするには自然環境が大前提です。自然あってのスキー、まさに「地球からの贈り物」と言えるでしょう。
寺田
「地球からの贈り物」なんかステキですね。
センターでも今年「未来へのバトン」という学習会を開催し、大人たちが次世代の子どもたちにより良い地球環境を渡していくためにどうすれば良いかを考える機会を創りました。
環境問題は大人たちの現在進行形の課題ですが、子どもたちも主体的にこれからを考えていくことが求められますね。
五十嵐
その通りです。子どもたちにもぜひ考え続けてもらいたいです。
せっかくできるようになったスキーのことや、その前提にある地球のことを。地球がこのまま温暖化すれば、必ず日本ではスキーができなくなる時がやってくるでしょう。それはそう遠い話じゃないと思います。自分たちが大切にしたい、楽しい遊びの機会が奪われようとしています。
地球の自然の中では、からだや心の違いがあっても、誰もがそれぞれの楽しさを見つければいい。楽しさに優劣はありません。みんなが平等に遊べます。そんなスキーをなくしたくありません。
寺田
僕もそう思います。
ところで以前、岐阜県が発表している木育プラン「岐阜モデル」というものに出会いました。そこでは課題を正面から捉え、自分の考えをまとめ、人にアウトプットできるようになるにはいくつかのステップが必要で、その最初が「ふれあう、親しむ」だといわれています。まさに子どもたちの体験活動がそれにあたります。
スキーキャンプには「人を大きくしてくれる機会」がちゃんと詰まっていますが、さらにその先には自然に関心をもち、地球の未来を考えて行動するための種が撒かれていると考えると、素敵ですよね。

五十嵐
人は自分が大切にするものは傷つけようとしないものです。「次の大人」になってゆく子どもたちに、「自然は絶対傷つけたくない大切なもの」という感覚をぜひもってもらいたいと願っています。
ひの自然学校のスキーキャンプに僕が関わり、こうして一緒に滑らせてもらうのは、僕なりの「未来へのバトン」なのかなと思っています。
寺田
これまだまだ何時間でも話せますね(笑)。
今回はひの自然学校を運営するスタッフの想いを対談形式でお届けしてみましたが、今後も保護者のみなさん、関係者のみなさんと思いを共有し議論しながら、子ども達にとって貴重な体験の機会をみんなで創っていきたいと願っています。
がらさん、今日はありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします!ずっとスキーを共に楽しんでいくために、長生きしてね♪(笑)

五十嵐 民夫(がらさん)プロフィール

20代で志賀高原のスキー学校に所属し、校長に就任。
スキー教師を専門職としながらキッズから修学旅行対応、大人まで幅広い指導を行う。
20年ほど前からひの社会教育センターのスキーキャンプアドバイザーとして関わり、リーダーと子ども達にシンプルで本質的なスキーを指導する自身も現役リーダー。
スキーの滑走スピードはどのスタッフよりも速く、大学生でも追い付けない。。。

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