【16】平和と公正をすべての人に
SDGsに掲げる16番の目標には、子どもに対する虐待や暴力を撲滅することが含まれています。
今回のインタビューは、ルポライターの杉山 春(すぎやま・はる)さんにお話しを伺います。
杉山さんが、相模原市のある団地の集会所を拠点に「孤立を防ぎ、社会とのつながりをつくる」ことを目指し、仲間たちと「居場所」を立ち上げたのは3年前。きっかけは支援につながってもらいたいある家族でしたが、周辺には古くからの団地があり、さまざまな課題を抱えた家庭も多くありました。
インタビュアーは、ひの社会教育センター職員の粟澤稚富美(あわさわ・ちふみ)(子育てカフェモグモグに勤務)です
みんなの居場所 大人も子どもも
粟澤
杉山さんは、虐待を受けて子どもが亡くなってしまった事件をこれまでいくつか、とても丁寧にいろいろな角度から取材されていますよね。
なにか共通していることはありましたか?
杉山
子どもが虐待の末に亡くなってしまうような事件の場合、その親は、周囲にSOSを出せず社会から孤立していたこと、そこには親たちの育ちの過程に課題があり、人を信頼したり自分は助けを求める価値があるということを教えてもらわずに大人になり、親になった。そこが共通していると感じます。
粟澤
だから、子ども時代にどう過ごすかが大事で、この「てとてと」という場があるのですね。
杉山
ここに来れば、信用できる大人がいる、そうした信頼関係をつくれる、そんな場所であってほしいと思っています。
今は、自分のダメな部分や弱みを見せることがどんどんできなくなっていますよね。悪く言われないように、ということをまず気にしてしまう。
粟澤
たしかにそうですね。子育てカフェに来るお母さんたちも、子どもが泣いたらどうしよう、と常に誰かに監視されているように感じたり、自分がダメな母親だと責めてしまっているような気がします。もっと、肩の力を抜いて子育てできたらいいなと日々感じています。
杉山
苦しい、と訴えることや、自らの困窮を認めることはものすごく力のいることです。
「支援を受けることが権利」と思えるか。困窮したり、行き詰まったりすることがダメなことだと思ってしまっている。
でもよく見てみれば、それは、自分のせいというよりも、社会の構造のせいであることに気づく。
いま、中間層がすっぽりと抜けているような、経済的格差が進んでいますが、そうした力の動き方に、自分たちが巻き込まれているということではないかと感じます。
「子ども」は「未来」
粟澤
2年程前から関わる中で、「てとてと」に来ている子どもたちを見ていて、子どもが自分の話を聞いてもらったり、大切にされていることを実感できると、成長につながると思います。
以前はお菓子を独り占めしたり、電気を点けたり消したりして大人の気を引いていた子が、最近落ち着いてきたな、と気付いたり。
杉山
そうですよね。「あ、この子、学校で大切に扱われているんだな」と気付かされることもあります。
子どもたちの様子で、その子の後ろにいる大人の様子や関わり方が見えてきます。
私も子どもたちに対して「正直」に接しています。話を聞けなくて悪かったな、って思ったときは、そう思っていることをちゃんと伝えたり、時には「これは出来ないよ」ということをしっかり言うことも。
大人が弱みを見せたり、うそをつかなかったりすることは、きっとその子に伝わるし、子どもにとって、とても大事なことだと思います。
今、心配しているのは、能力があるのに家庭の中に問題を抱え、支援が届かずにとりこぼされてしまう子が少なからず居ることです。
理論立てて考えたり、知識を持っていけば解決できるということを知っていってほしい、そして「自分が大切にされる」という体験をたくさんしてほしいなと思います。
粟澤
「子ども」って「未来」ですよね。子どもたちがいろいろなことを知って、自分のやりたいことや、行きたいところを、選んで生きていけるよう、私たち大人にできることをこれからも考えていきたいです。
杉山 春さんプロフィール
ポライター。『ネグレクト 育児放棄─真奈ちゃんはなぜ死んだか』 (小学館文庫)で第11回小学館ノンフィクション大賞受賞。
著書に『児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか』(朝日新書)
『ルポ 虐待 大阪二児置き去り事件』(ちくま新書)など。
みんなの場「てとてと」を仲間と一緒に運営中。共同代表。
しかし、この目標を達成するには自分たちに何ができるのでしょうか。
今年度はひの社会教育 センターの職員がそれぞれ関心のあるテーマを取り上げ、 「自分ゴト」としてとらえ、その分野の実践家や専門家と対談しながらSDGsの取り扱い方について考えていきます。