【12】つくる責任 つかう責任
「人や自然に負担をかけず、質が高くて多くのものが得られる生産と消費のあり方を追求する」を目標に掲げ、中でも大きな課題とされているのが「食品ロス」です。
日本は統計で年間6百万トンの食品を廃棄し、この数は世界が途上国に援助している食べ物の1.6倍にもなります。
今回は、この「食品ロスを減らす」目標に取り組む京都市動物園の、京都市文化市民局動物園総務課企画調整係長・長尾充徳(ながお・みつのり)さんと、種の保存展示課のゴリラ飼育担当、安井早紀(やすい・さき)さんにお話を伺いました。
同動物園では、市内の企業や商店、生産者から動物の餌となる食べ物の寄付を受け、大きなムーブメントとなりました。
インタビュアーは、小学校での栄養教諭としての勤務経験もある、ひの社会教育センタースタッフ、兵頭有香(ひょうどう・ゆか)です。
(対談はZoomで行われました。画面左から長尾さん、安井さん、兵頭です)
メディアに取り上げられたことが、広まるきっかけに
兵頭
動物園での取り組みはどのように始まったのですか?
長尾
2020年2月に「命輝く京都市動物園構想2020~いのちをつなぎ、いのちが輝く動物園となるために~」を策定しており、SDGsの目標達成に向けて取り組んでいくことも施策の一つとしいた中、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、市の財政ひっ迫を受け、運営費を見直し、削減の検討を始めました。
その一つの方法として、これまで手を付けていなかった食べ物の寄付を受けることにしました。
安井
最初は、園内の木を剪定している造園業者から剪定枝の寄付があり、草食のゴリラ、ゾウ、キリンやサルの仲間に与えると新鮮なことが良かったのかよく食べました。
京都市内の多くの方が購読している「京都新聞」に掲載されたことで一気に寄付の輪が広まり、他の企業などにも広がっていきました。
兵頭
今までどのようなものが寄付で届きましたか?
特に動物たちが喜んだものはありますか?
安井
定期的に決まった曜日にいただけるのは近所のお漬物屋さんから野菜端材、市内の学校給食製造会社の野菜端材、先日は調理師専門学校から桂剥きを練習したもので、生の大根がたくさん届きました。
新鮮な剪定枝は、普段の餌で用意できない種類もあり助かりますし、有名なコールドプレスジュースのお店からは、ジュースの搾りかすが冷凍で届き、暑い日にデザートとして喜んで食べていました。ゴリラには与えていませんが、お豆腐屋さんから毎日、おからもいただいています。
動物園が餌として準備するものと、寄付でもらったものの割合はどの程度ですか?
安井
ゴリラでは寄付が1日に与える野菜類の半分以上を占めるときもありますし、他の種ではほとんどが寄付の餌で賄えるときもあります。
普段のプラスであげることが増えたので、寄付をもらう前と比べるとバリエーションが増えています。
兵頭
逆に手間になってしまうなんてこともありますか?
安井
大きな動物だと、野菜の皮等では細かすぎて食べてくれないこともあります。動物が好んで食べないものや、生ものは傷んでしまうことも。
でも、季節ならではの物をいただくこともあるので、先日は実がついたままの柿の枝がたくさん届き、ゴリラやサルが「柿食べ放題パーティー」でした(笑)。
珍しいものが入ることもあって、香草のフェンネルがきたときは、誰も食べたことがなく、海外の動物園での餌のガイドラインを調べることで、学びにもつながっています。
相互に助け合う関係がわかりやすい
安井
以前からゾウ舎にコンポスト(たい肥をつくるシステム)があり、ゾウやシマウマの糞で肥料をつくり地域の農家へ提供することを進めていました。
これは動物園側でも糞尿をゴミとして廃棄するにもお金がかかるため、その予算を削減する取り組みです。
長尾
SDGsにつながるリデュースやリサイクルの取り組みは相互にwin-winであることが基本だと思います。
お互いが助け合っているという点が、とてもよい取り組みにつながります。
造園業者や商店は、枝や食品の廃棄にお金がかかりますが、寄付することで廃棄料が節約になり、さらに動物たちが喜んで食べてくれることがわかると嬉しい、動物園にとっては飼料費の削減につながる、という双方のメリットになります。
また、園は糞を肥料にするという取り組みも廃棄料の削減になり、農家さんも喜んで、地域での繋がりにります。
他にも保育所の子どもたちが動物園の肥料を使って育てた野菜を、動物にあげてほしいと持ってきてくれたり、その野菜を動物にあげているところを見に来てくれたりすることもあります。子どもたちにもわかりやすいと思います。
そして園の職員にとっても、今回の取り組みでSDGsを身近に感じるようになりました。地域での循環を感じ、節約だけではない効果が生まれていると感じる部分です。
また動物園では、餌代の赤字が続いていましたが、今年度はかなりの削減につながり、すでにいい効果が出ています。今後も継続していきたいと考えています。
終わりに
京都市動物園の取り組みから、「つかう責任」をうまく表現しているストーリーを教えてもらいました。SDGs 12のコンセプトは、他の項目と比べ、私たちの生活に密接していて、自分ゴトとして意識して取り組みやすい内容ではないでしょうか。
消費者としての私たち個人が実行できることは小さなことかもしれませんが、何もしないよりはいい、そして、時にこうした大きな動きとなり、成果を生むこともあると感じます。
皆さんの身の周りでできる「何か」は何でしょうか?考えてみるきっかけになったら嬉しいです。
しかし、この目標を達成するには自分たちに何ができるのでしょうか。
今年度はひの社会教育 センターの職員がそれぞれ関心のあるテーマを取り上げ、 「自分ゴト」としてとらえ、その分野の実践家や専門家と対談しながらSDGsの取り扱い方について考えていきます。