【07】エネルギーをみんなにそしてクリーンに
今回は株式会社ヒナタオエナジーの代表取締役社長、来村俊郎(くるむら・としお)さんに、職員の井上恵里がお話を伺いました。
上の写真は(株)ヒナタオエナジー来村俊郎さん(左端)とソーラー部門で働くみなさんです。
井上
ヒナタオエナジーの会社のことや事業内容を教えてください。
来村
ヒナタオエナジーは、エネルギー関連の事業を通じて社会課題を解決することを目的に2019年に設立された会社です。
私たちの会社がもつ事業は大きく分けて二つあり、一般のお客様に電気とガスのサービスを提供するエネルギー小売り事業と、「第三者保有型太陽光発電事業」という太陽光発電事業です。
井上
SDGsの目標にはどのように向き合い、今後の展望はありますか?
来村
7の目標については、いちエネルギー会社としてやらなければいけないことであるし、ぜひ取り組みたいと考えています。ただ、大きなテーマなので出来ることから進めていきたいと思っています。
特に事業の1つである太陽光発電事業は、多くの企業が手掛けており、市場としては寡占状態です。
しかし、多くの企業は設置する対象物件を新築の建物に限っており、当社のように既築の建物を主軸にサービスを提供している企業は少ない状況です。その中でも特殊なパネルや工法により、多くの既築の建物に太陽光を設置できる提案ができるという点が当社のサービスの特徴です。
既築の建物に太陽光の設備を設置することが難しいとされる点は、一般的な太陽光の設備は非常に重いことに加え、アンカーを打つなど屋根や屋上に穴をあける固定方法を選択することで、屋根や屋上への負荷が大きい点です。
当社のサービスは痛めつけない方法を選択しますので既設の建物に対する負荷を最小限に抑えることができます。
構造物の寿命を100年まで延命するような時代です。「建て替え」より「メンテナンスして出来るだけ長く維持していく」という考え方に変わってきています。
社会課題の解決に対して、時代にあった選択肢を提供することは重要ですし、それを継続して取り組めるよう事業性を維持することに試行錯誤していますが、意義は大きいと感じています。
井上
SDGs目標のひとつである「再生可能エネルギー」を使う割合を増やすという観点では17.8%しか達成できておらず、まだまだ少ないと言われています。
この数値が上がっていくきっかけやアイディアはありますか?
来村
国主導で個人や企業が自家発電して余った電気を売ることができる制度(固定価格買取制度:FIT)が2012年よりスタートしました。当時は国の買取価格が高く、太陽光を設置すれば電気代が安くなる(売電することで電気代を押さえられる)というメリットがありました。
しかし、近年では買取価格は当時の3分の1程度まで下落しています。制度開始当時のイメージが世間的に強く残っており、お客さまから「電気代が安くならないなら設置する意味がない」というご意見をいただくことがあります。
再生エネルギーの利用を今以上に高めるためには、現状を正確にとらえ、当初の「電気代が安くなる」というイメージから、「環境性や防災性としての価値」への理解と共に「導入しやすくする仕組みや考え方」を我々のような企業が提案できることが非常に大事であると感じています。
時代がもう少し進めば、世間の価値観も変わり、環境や防災の視点が広く受け入れられると思っています。現在はその移行期間にあり、移行するスピードが遅いだけで、誰かがそのスピードを速める取り組みを行えばいい。
誰かがやるのを待つのではなく、私たちがやるという意思と行動が必要です。
また、太陽光を使うことは「エネルギーの自産自消」であり、自分たちで「生グリーン電力」を発電して消費するという思想です。
この取り組みは日本だけのものではなく、簡素なシステムの構築により、世界中で利用できるような未来を作っていくことができると思っています。
この発想は7の目標を達成するためには大事なポイントと捉えています。
井上
「生グリーン電力」面白いですね。
自分のところで作れて使えるというのは、100%消費する分を作り出すことが出来るのですか?
来村
現実的には難しいです。例えば、太陽光は夜間では発電ができません。風力は風がなければ発電できません。
安定的に生グリーン電力を生むことは非常に難しいというのが実態です。ただし、蓄電池とセットにするなどできる限り100%に近づけるご提案しています。
井上
現在の世界情勢の影響で、エネルギーなど当たり前に使えるものが供給されなくなってしまうのでは?とも感じます。
しかし、またどこかで科学の力や世界のネットワークでどうにかなるのでは、という甘えがあります。
来村
厳しく言えば、歴史は繰り返され、学んでいるはずなのですが、改めて個人も企業も当たり前が当たり前じゃないことを痛感する機会になったのではないでしょうか。
個人的には東京都が推奨する「電力を減らす(H)、創る(T)、蓄める(T)」をどのように実現するかについて考えるいいタイミングだと考えています。現実として事業者側も、より環境にやさしい電気をどのように作り、蓄めるか…、その課題に直面しています。
また、温室効果ガスの削減という大きな課題も併せて考えなくてはいけない状況です。
行政側の法整備が徐々に進んできていますが、環境などの社会問題に対して法制度の締め付けにより行動するのではなく、何が課題かを見極め、事業として先駆的に試行錯誤してやっていく、という道をつくっていくことが企業にとっては大事だと思っています。
井上
SDGs 7の目標から少し離れますが、防災性の面で、昨今の豪雨や地震を経験し自分達で備えるという自助力が問われている局面があると思います。
ヒナタオエナジーさんで、防災対策として考えられることはありますか?
来村
太陽光を設置することにより、強烈に何かがよくなるわけではありません。あくまで太陽光発電は手段であり、防災においては個々の災害時のアクションや地域の力が大きくなると思っています。
災害時に最低限必要なものの1つとして非常用発電だと思いますし、それを燃料なしに使える太陽光発電は魅力的だと思います。電源があればそこに防災拠点が作れ、その防災拠点を軸に災害時対応が起こせます。
これらの活動は太陽光発電があればできるものではなく、それをうまく回すための自助公助がうまくかみ合うことで機能すると思います。
しかし、そのきっかけとなる太陽光発電を設置することへの必要性を強く感じ、予備的に設置することが価値として見出せるか…。それは体験していないと、導入には腰が重いというのが現状ではないでしょうか。
個々のアクションや地域の力も同様です。最悪の事態を想定して未然に動くということは簡単ではありません。だからこそ、その価値を継続的に言い続けることが大事です。
1つの例ですが、我々のサービスの1つにマンションの専有部(各部屋)に非常用コンセントを設置することができます。
これは、夜間に災害を経験された方からまずは光の確保、次に情報収集が大事というお話をお聞きしました。我々エネルギー会社ができることは、初動がとれるよう電気を供給し続けられる手段を模索し、実現に向けて行動することであり、集合住宅の専有部にも非常用電源を設置できるよう国や関係機関と交渉を行い、その了解をいただきました。
こういったことを1つ1つ取り組んでいくことで、有事の際においても初動を落ち着いてできるようになる一助ができればと思っています。
井上
私は防災と環境は似ていると思っていて、環境についても学校での学びではなく、自分で地球をよりよくしたい、未来の人へ残したいから、自分がこの行動をする!と思えない限り、環境に対するいいことができないと思います。
防災についても同じで、誰かに助けてもらえばいい、とみんなが思っていたらどうしようもなく、自分達でできることは自分たちでしたうえで、近くの人を助けるくらいの気持ちじゃないと、いざというとき街全体が生き残ることができないと思います。
来村
3,11の経験談を聞くと、多くの方が寒さと停電の中、夜にスマホのひかりが唯一の心の支えになったという話が印象的でした。
私たちは小さな企業なので全てを解決することはできません。ただ、有事においてもできるだけ光を長く提供することが大事かな、と感じます。これは簡単ではないものの、こういった気持ちをひと押しできるよう、我々にとってできることをこれからも意識しておきたいですね。
井上
最後に、未来を生きるこどもたちのために、大人が取り組めることは何でしょうか。
来村
一つは、環境対策に対して、エネルギーという視点からのアプローチは障壁がたくさんあります。
しかし、少しでも後世に課題を解決した形でバトンタッチするのがとても大事です。それは大きな飛躍ではなく、一つ一つのステップの積み重ねだと思いますし、みんなでそれをクリアしていくのが大事だと思います。
そのために、心のどこかにある「誰かが」を「みんなが」、「みんなが」を「自分も」という風に「自分ゴト」に変えてもらいたいなと思います。
もう1つは、環境に対する関心を今以上に持てる仕組みを作らないといけないと思っています。資源リサイクルなどは現在当たり前になっていますが、この定着にはそれなりに時間をかけたとの認識です。
そのスタートを切るのが私たちにとっては今であり、我々大人側が継続的に子供たちにも発信し、子供たちが興味をもてるよう伝えていく、こういった形で様々環境問題に対する教育ができるような仕組みが必要だと思いますし、実現したいな、と思っています。
私たちもできることから取り組みたいと思います。ありがとうございました。
しかし、この目標を達成するには自分たちに何ができるのでしょうか。
今年度はひの社会教育 センターの職員がそれぞれ関心のあるテーマを取り上げ、 「自分ゴト」としてとらえ、その分野の実践家や専門家と対談しながらSDGsの取り扱い方について考えていきます。